Sunday, November 28, 2004

大角翠編著 2003 『少数言語をめぐる10の旅』 三省堂

目次
旅のはじめに 少数言語とその話者たちへのエール
第1の旅「アフリカ中央部」 無文字社会のことばと知恵—アフリカにおける文化の伝承(梶茂樹)
 コンゴのモンゴ族は太鼓でメッセージを伝達。表現が二重になっていて、意味はわかる人にはわかるし、わからない人にはわからない。「人間はバカでは生きていけない。バカな人たちは、表面的な意味だけを理解して生きていく。しかし、それでは生きていることにならない。」
第2の旅「アラビア半島・北アフリカ」 アフロ・アジアの消えた文字と言語(中野暁雄)
アフローアジア語族(旧称セム・ハム語族)=文字の言語(セム系文字・ギリシャ系文字・ラテン系文字・テフィナグ系文字が現行)
第3の旅「中央アメリカ」 マヤ諸語の構造の変化(八杉佳穂)
能格言語で、逆受動という現象がある。(主語を焦点化してそのままにし、動詞の態をかえる)
第4の旅「中国・新疆ウイグル自治区」 「エイヌ語」への縮まらない道のり(林徹)
第5の旅「中国南部」 中国少数民族の生き方(田口善久)
カルク calque, calquing =バイリンガル社会において自前の語彙を使いながら、借用相手の語の構成や文法を写してくること
第6の旅「台湾」 台湾原住民諸語調査こぼればなし(土田滋)
 台湾原住民=先住民というと「昔いたが、今いない」という意味になるので彼らの要求でこう呼ぶ。清朝
時代には番人→日本時代 蕃人・平「土+甫」族=漢民族化と高砂族 →民国 高山族・山胞→原住民(オーストロネシア語の故地)
 オーストロネシア語族の特徴 VS0か VOSの語順 動詞の接辞が主語によって違う=焦点 
第7の旅「メラネシア」 言語のモザイク模様(大角翠)
ニューカレドニアの先住民語のうち2000人以上の話者をもつのは6言語だけ。(28のうち)
第8の旅「インドネシア・西部ジャワ」 多層な文化を支える言語(降旗正志)
数百の地方語を母語とし、学校教育のなかで公用語・国語のインドネシア語を学ぶ。学校教育のなかで大きな地方語が教えられることもある。スンダ語(話者2500万人)・・・敬語体系・「は」にあたるもの=テ〜 がある
第9の旅「オーストラリア」 原住民の言語・文化の維持と復活(角田太作)
白人以前200〜250 →現在 100程度(ただし、今後数十年間生きのこる可能性のあるものは20くらい)
能格性(ほかにヒンディー・バスク・グルジア。エスキモーなど)言語でとくに統語的能格性(複文形成における能格性)があり、めずらしい。最後のネイティブの死後、その子孫が学習中
第10の旅「サハリン」 ことばの永遠の命を願って—樺太アイヌ語の半世紀(村崎恭子)
たとえ話者は絶えても、その言語の文化は人びとの記憶にとどまる限り残る

Saturday, November 13, 2004

井上史雄 2003 日本語は年速一キロで動く 講談社現代新書

目次
第1章 逆流による東京新方言
1—東京新方言の広がり方 ウザイ チガカッタ・チゲー ミタク  
2—最近の東京新方言 見ルベ レタス言葉 サ入れ言葉  
第2章 西日本の新方言
1—関西型新方言 ムカツク ジャカマシイ オモロイ  
2—西日本「〜ン」系の新方言  〜ンカッタ ミヤンダ ミラン ヤンカ ヤン ジャン
第3章 全国各地の新方言
1—各地の新方言の伝わり方 ケンケン ベベ コショバイ コソバス ケッター シナイ バリ 
2—東北の新方言の伝わり方 ケル ワシェタ オモシェ(ラ行弱化)サ 
第4章 伝わり方の今と昔
1—流行語・共通語と地域差 
2—江戸時代からの変化をとらえる 『浜荻』『日本言語地図』
第5章 全国への広がり方
1—ことばの伝播速度を測る 
2—古語と方言の歴史 『全国アホバカ分布考』 ヨーロッパへの印欧語族の移動・アメリカ大陸へのモンゴロイドの移動も年速1キロ
第6章 ことばが変わるしくみ
1—方言伝播速度とマラソン
2—年速を知る3つの手がかり
3—新方言と伝播のメカニズム 
4—新方言と言語変化 方言周囲論・周圏分布・ABA分布:本居宣長・賀茂真淵・柳田国男

方言学の入門書 かな?

Tuesday, November 02, 2004

スーザン・H・フォスター・コーエン 2001 子供は言語をどう獲得するのか 岩波書店

目次
第1章 言語獲得にあたって子供はどういう能力を用いるか?
  基本的にはUGが生得的、という考え方にたつ。p14/15の「前提的考え方」が重要
第2章 言語が使えるようになる前に子供はどのようにして伝達を行うか?
  言語以外の情報も重要 言語音とそれ以外の区別、喃語ナンゴ→言語、身振り
第3章 言語発達はいつ始まるのか?
  1語期・2語期の発話の意味論的記述(ロジャー・ブラウン)
第4章 幼児は言語の働きをどう見ているか?
  2〜5歳児のことば、分析(MLU) 形態・構造・機能の各側面
第5章 言語発達を左右するものは?
  臨界期(レナバーグ1969)ジーニー 赤ん坊言葉 UG(LAD言語獲得装置)→中核文法の確立
第6章 子供はみな同じように言語を獲得するのか?
  ジーニーの例 ダウン、脊椎被裂、ターナー症候群、ウイリアムズ症候群、自閉症 
  盲児は言語内部がモジュールに分かれているとする説
第7章 どの言語を習うかによって違いが出るか?
  語順の自由度(英<伊・西<ナバホ)が高い→形態論に習熟早
  受け身文の必要度の高い言語(セソト語)など→受身構文の習得早い
  UG(核)(人称・時制)と 周縁部(数・性・有生性・人称)
第8章 言語発達が終わるのはいつか?

内容はテキストっぽいつくり(体系的)ですが、装丁はいい感じ。章末ごとに討議題目とか研究活動、読書案内などがあり、読みやすそう。(討議とか、研究は読みませんでしたが。SLAのキモの記述がたくさんあり、わかりやすい本だと私は思いました。アマゾンのカスタマー・レビューは??です。

Monday, November 01, 2004

青木直子・尾崎明人・土岐哲 2001 日本語教育学を学ぶ人のために 世界思想社

目次
序章 日本語教育はだれのものか
第1部 何が学習されなければならないのか
 日本語能力とは何か
 スキルとは何か
 学ぶことを学ぶ能力
第2部 学習はどのように起こるのか
 認知心理学的視点
 ヒューマニスティック・サイコロジーの視点
 フレイレ的教育学の視点
 状況的学習論の視点
 普遍文法の視点
 第2言語習得研究の歴史
 第2言語習得の現状
第3部 教師の仕事
 教師の役割
 異文化間コミュニケーションと日本語教師
 アクション・リサーチ (AR)
 教師の一日

日本語教育の分野では、アメリカやオーストラリアからの主に英語文献からの知識が多い。だから横文字(カタカナ)が多い。しかし、この本のなかの教育に関する部分は、もしかするとこくご教育の分野で、例えば大村はまの仕事などにすでにあるようなことも書かれているのではないか、とふと思った。教育プロパーではないので、詳しくは分からないが、たとえば、褒め方などというのは、小学校の先生にとっては、常識のような大村セオリーみたいのがあるのではないだろうか。それは仮説でも何でもなくて「こうしなければなりません」というふうに書かれているかもしれないけれど。

なかなかコンパクトによくまとめられている本です。第2言語習得のおおまかな研究史・流れも概観されていて、助かります。