岡ノ谷一夫 2003 小鳥の歌からヒトの言葉へ 岩波書店
岩波科学ライブラリー92
目次
まえがき
1 小鳥の歌とヒトの言葉
トリの歌の学習過程と人間の音声言語の獲得仮定の共通点:呼気をエネルギー源として、音を作り、音源から先がフィルターとして働いて音に多様性をつける。複数の独立した筋肉群を精密に強調させることで可能になる。。大脳が非対称的に働く。(片半球に偏在)学習過程に臨界期がある。
トリの歌とヒトの言葉の相違点:歌における意味の欠如。(地鳴きは意味を持つが、生得的)
2 複雑な歌をうたうジュウシマツ
歌のひとまとまりをチャンクと呼び、有限状態文法のかんがえかたで分析。
3 ティンバーゲンの理想
ティンバーゲン(動物行動学)の4つの質問:
行動のメカニズム(その行動がどのようなしくみによって可能になっているか)
発達(その行動が、個体発生の過程でどう獲得され、どのような過程を経て発現するのか)
機能(その行動をとることにより、その個体およびその個体を構成する遺伝子群がどのような利益を被るか)
進化(その行動がどのような淘汰圧のもとに進化してきたのか)
/至近要因ーーメカニズム・発達
\究極要因ーー機能・進化
原種であるコシジロキンパラの歌は線形(単純な繰り返しパターン)
ヨーロッパジュウシマツは、ジュウシマツとコシジロキンパラの中間段階
ジュウシマツの歌は有限文法状態(複雑)
4 ジュウシマツの歌と四つの質問
1)進化 ジュウシマツ(線形性0.33)のほうがコシジロキンバラ(線形性0.61)よりも14dbも大きく鳴く。どちらも。8つ程度の音要素を用いる。←大きな声で鳴くと、天敵に発見され、補職される
2)メカニズム ジュウシマツの歌のフレーズ、チャンク、歌要素という階層はNlf、HVC、RAという解剖学的な階層に対応
Nlf、HVC、RAはそれぞれ歌のフレーズ、チャンク、要素に対応した処理を行う。
3)発達 生後35日 歌い始め(サブソング)70日以降 歌の要素はずべて出現。規則性はまだなし(プラスティックソング) 120日程度 有限状態文法が固定(クリスタライズドソング) 志向歌と無志向歌とでは構造に差はないが、脳内機構が異なる。 オトナになってからも歌が変化
4)機能 ジュウシマツは家禽化されたことで補職されるおそれが減り、そのことでメスによる選択が強調され、歌が複雑化
5 四つの質問を越えて
志向歌を歌っているときと、無志向歌を歌っているときでは脳内の活動が異なる。無志向歌のときだけ、背景雑音にあわせて大きさを変える。←聴覚フィードバック
6 残された疑問
7 歌文法から言語の文法へ
文法の性淘汰起源説←ジュウシマツの歌の研究
/意味のないところで文法が進化しうる(内容と形式の独立進化説)
\家禽化による淘汰圧の緩和は性淘汰により方向付けられた形質の進化を促進(焼き鈍し説)
人間の言語に敷衍可能 (内容と形式の直列進化仮説→2語の組み合わせで進化が停止 △)→独立進化説
ヒトの文法進化のシナリオ
サバンナで集団生活→自己家畜化(生産手段の確保・集団自己防衛)→淘汰圧の緩和→ダンス・歌など性的ディスプレイ→性淘汰→歌=有限状態文法
この説の弱点と強み
弱点:言葉は男女ともにしゃべる。また、もともと異なる基準で言語能力を選択してきたのだから、男女の言語使用に違いがあるはず
強み:線形のまっすぐな時系列信号より有限状態文法をもつ時系列規則のほうが言語により近い。文法の壁を性淘汰によって説明。
あとがき
本の解題
テレンス・デーコン『ヒトはいかにして人になったか』新曜社
舟橋克彦『雨の動物園』偕成社文庫
長谷川真理子『生き物をめぐる4つの「なぜ」』集英社新書
小西正一『小鳥はなぜ歌うのか』岩波新書
鷲尾紘一郎『十姉妹の謎を追う!』近代文芸社
渡辺茂『認知の起源をさぐる』岩波科学ライブラリー
渡辺茂『ヒト型脳とハト型脳』文春新書
アモツ・ザハヴィ、アヴィシャグ・ザハヴィ『生物進化とハンディキャップ原理』白揚社
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