角田太作 1991 世界の言語と日本語 くろしお出版
第1章 はじめに
言語類型論は世界の言語を比較し(A)言語はどのような点で、どのように異なっているか(B)諸言語にはどのような点でどの程度、共通性があるか、について研究する。言語の比較によって、言語の普遍性をさぐることができるし、言語に共通の法則性や、ある言語の特質がそれとわかる。
第2章 語順
グリーンバーグの比較項目を参照して、日・英・タイ各語の各語順を対照比較。タイ語と日本語は、一貫して語順が逆であるが英語は一貫性がない。
第3章 格
格の定義(仮)
(A)語尾変化 he him his (B)側置詞との組み合わせ to school 「学校 へ」 (C)語源的に異なる単語を使う Iとme
格の組織 (Comrie1978 による)
(A)(主格・)対格型 (B)能格(・絶対格型) (C)中立型 (D)三立型 (E)他動詞文中和型
(その他 active-inactive)(Sapir 1917)
第4章 名詞句階層
シルバースティーンSilverstein 1976 の名詞句階層
代 名 詞 名 詞
/ \ / \
1人称2人称3人称 親族名詞、 人間名詞 動物名詞 無生物名詞
固有名詞 自然の力の名詞 抽象名詞,地名
・動作主になりやすさの度合い、動作の対象になりやすさの度合いを現す
・話し手にとっての重要度、自己中心性、話題になりやすさの度合い、身近さの度合いを表す
格組織以外の文法現象を反映
(A)日本語でも能動文・受動文の使い分けに関してこの階層が関連している。
1人称 2人称 … … 動物 無生物
動作主—————————————→対象 能動文:自然 受動文:不自然
対象←————————————— 動作主 能動文:不自然 受動文:自然
Kuno and Kaburaki 1977 では、
・Speech-Act participant Empathy Hierardhy 談話参加者への感情移入の階層
話し手>聞き手>三人称
・Humanness Hierarchy 人間らしさの階層
人間>人間以外の動物>物
・発話当事者の視点ハイアラーキー(久野1978)
一人称>二.三人称
この三つを合わせれば、シルバースティーンにほぼ同じ。
日本語の(D)他動詞文の無生物主語の不自然さについても、この観点から捉える方が正確である。また(B)「は」「が」の問題について(C)「こと」の分布についても、好き・嫌い・好く・嫌う などでは、一人称から人間名詞まで使えるが、動物名詞・無生物名詞では使えない、などこの階層が関係している。
第5章 他動性
他動性transitivity のヨーロッパでの伝統的な定義=(A)他動詞文には目的語がある。動作が主語から目的語にむかう。(B)自動詞文には目的語がない。動作は何にも向かわない。
これを日本語について妥当かどうか考えてみると、次のような問題点がある。
(A) 格の点では普通に言う他動詞文と同じだが、動作が相手に及ばない点で違う文がある。
(B) 動作が相手に及ぶ点では、普通に言う他動詞文と同じだが、格の点で違う文がある。
(C) その他、他動詞文と呼びがたいが、自動詞文と呼ぶには納得できない文がある。
そこで原型 prototype という考えで定義をする。注意事項二点:
(A) 他動性を考える際に、その意味的側面と形の側面をはっきり区別する。
(B) 他動性の問題は程度問題である。他動詞文と自動詞文は明確に区別はできないで、連続体をなしている。この定義では他動詞文らしい他動詞文(他動詞文の原型)を設定する。
他動詞の原型:相手に及び、かつ、相手に変化を及ぼす動作をする動詞。
[殺す、壊す,傷つける、作る、改良する、増やす、減らす、動かす、止める、溶かす、温める、隠す。覆う、与える、送る]
動作が対象に及ぶ=対象が動作を被る= affectedness (被動作性)が問題であって、 volitionality 意志性は無関係。
第6章 二項述語階層
ここでいう述語は、動詞・形容詞・形容動詞で、名詞文は含まない。
項については、 Lyons1968 が、動詞と組み合わされる名詞(など)の数による分類を提案したが、それを利用。日本語では
(1) 一項動詞 「が」が大多数。 泣く、面白い
(2) 二項動詞 「が−を」が多い。 読む、惚れる、好きである
(3) 三項動詞 「が−に−を」が多い。読ませる、売る、買う
(4) 四項動詞 (三項文を使役文、間接受動文にする)買わせる、買われる
(5) ゼロ項述語 天候・気温・明暗・状況・時間を表す述語 暑い、静かだ
この中で項がとる格に注目すると、格枠組みの数が最も多いのは二項述語である。この階層は次のように考えられる。(動作が対象に及ぶ傾斜cline度)
動作動詞(述語) 状態動詞(述語)
1 2 3 4 5 6 7
直接影響 知覚 追求 知識 感情 関係 能力
変化 無変化 変化 無変化
殺す 叩く 見つける 待つ 知る 愛す 持つ できる
が−を
が−に が−に
が−が が−が
が−から
に−が
1) 対応する自動詞の有無:開ける−開く(他目=自主 型)
2) 英語では see/hear と look/listen のように別の動詞(日本語にはこの区別なし)
3) 〜6)のような配列は、諸言語を比べて、格枠組みが出やすい順に配列。
ボイスの面から見ると、受動文・再帰文・相互文ともに1類から4・5類まで可能な述語がある。
アスペクト用法でも、「している」「する」の対立は、表の右端では起こらないが、左端では対立する。(財産を持った/ている男vsビールを飲んだ/でいる男)
第7章 所有傾斜
所有者敬語の自然さ・的確さは次のような傾斜にも左右される。
所有傾斜:身体部分>属性>衣類>親族>愛玩動物>作品>その他の所有物
また、所有物が他動詞主語か自動詞主語か、または目的語かにも関連がある。
直接目的語、間接目的語>自動詞主語>他動詞主語
身体部分 属性 衣類 親族 愛玩動物 作品 その他の所有物
他動詞主語 ……………>
自動詞主語 -------------------…>
直接目的語 ------------------------------------------------------------------------->
間接目的語
さらに関係文法の文法理論で possessor ascension 所有者昇格と呼ばれる現象にも所有者敬語の考察結果は関係する。(象の鼻が長い(こと)。/象が鼻が長い(こと)。)左に行くほどより自然、右がより不自然である。
分離不可能所有物(身体部分・属性)に関する所有の表現「した」「している」/「所有する」/「持つ」/「ある」/「所有物+の+所有者」 に関わってその用法は、それぞれ制限がある。(数字は制限の大きいもの順)
(1) 所有動詞「した」(関係節内)「している」:身体部分、属性/普通所有物で修飾要素が独立の単語
(2) 「所有する」:所有傾斜の低いものに限られる
(3) 「持つ」:文脈しだい(制限も多い)
(4) 「ある」:身体部分ではほとんど制限なし・属性/修飾要素が必要
(5) 「所有物+の+所有者」:属性、修飾要素なしでは使えない
第8章 主格、主語、主題、動作者:文法分析の四つのレベル
主語とはなにか
(A) Keenan and Comrie 1977
名詞句階層 主語>直目>間目>斜目>所有格句>比較の対象
関係節の作りやすさにこれがはたらいている。
(B) Comrie 1976 使役文の作りやすさに名詞句階層がはたらいている。
(C) 関係文法 Gary and Keenan 1977 Johnson 1977 名詞句階層が基本的な単位であると主張
(D) Foley and Van Valin 1977, Van Valin 1977 主語という考えが当てはまらない言語もある
(E) Li and Thompson 1976 諸言語の分類基準として、主語中心 subject-prominentの型と話題中心topic-prominentの型を提案。
(F) 三上章 1960,1963,1972 主語廃止論 日本語で重要なのは「主題」であるとする。
(G) 日本語研究では主語の他に「主格」「主題」「動作主体」が使われるが区別されずに使われることがある。
四つのレベル
(1) 意味役割 semantic roles のレベル:動作主・対象・受取人・感情感覚の持ち主・所有者・仲間・行き先・出発点・場所・時間・道具 など
(2) 格 case のレベル:主格・対格・能格・絶対格・与格・所格・方向格・奪格・仲間格・道具格・所有格
(3) 情報構造 information structure のレベル:主題or話題 topic対 comment 標言 / 旧情報 対 新情報
(4) 文法機能 grammatical functions, syntactic functions, grammatical relations のレベル:主語・目的語・副詞句・呼掛け句 など
意味役割レベルと格レベル
(1) 動作主 「が」が多い。「で」「の」「に」「から」も
(2) 対象 「を」が普通。「の」「が」「に」も
意味役割レベルと情報構造レベル
動作主・対象・場所・時などは主題を表す場合も、評言を表す場合もある。
(動作主が主題に最もなりやすいのは諸言語に共通した傾向)
格レベルと情報構造レベル
副助詞は格助詞の後ろに、終助詞はさらに副助詞の後ろに付くことができる。
格助詞+副助詞+終助詞
格助詞「が」「を」は「は」「も」が付くと隠れてしまう。つまり、主題が表しているのは、主格(が)の場合もあれば、対格(を)の場合も、その他の場合もある。
日本語における文法機煤@鈴木1972 主語・対象語・修飾語・状況語・独立語 (主語派)
寺村1982 必須補語・準必須補語・副次補語・副詞的修飾語(主語不要派)
・「主語」(が格主語)設定の根拠
A) 尊敬の動詞の先行詞になれる。(動詞の一致Shibatani1982)←例外有り
B) 再帰代名詞「自分」の先行詞になれる。
C) 数量詞遊離 ←数量詞が「の」によって結びつけられてない言い方もできるかどうか
D) 意味役割・格・情報構造で記述できない。→別のレベルで設定する必要
・「目的語」
意味役割・格・情報構造で記述できない。→別のレベルで設定する必要
主語の強さ
強い <--------------------------------------------------->弱い
英語 ドイツ語 日本語 ジャル語 中国語 リス語
第9章 日本語は特殊な言語ではない。しかし、英語は特殊な言語だ。
日本語特殊説 英語標準説 についての反証
(A) 母音 世界の言語の中で5母音のものが最も多い。
(B) 語順 世界の言語の中でSOV語順が最も多い。
第10章 言語教育への提案
言語教育における母語の影響
(1) 発音:日本人→英語の場合、子音rとl、 vとb 、s とth 母音hatとhut、 mad とmud、 badと bud、の区別が難しい。
(2) 文法:ベトナム人→日本語 本の私 ハンガリー人→英語 Do we go?をGo we?
(3) 語彙:日本語「て」→英語 arm / hand
などがある。母語の影響がL2日本語のテストに反映するという実例を示し、言語を教える側が、学習者の母語を含めて色々な言語を知っていると、言語教育に有用であると思われる
第11章 おわりに
言語類型論的な視野を持つと個別言語の研究にも役立つ。また、逆に、個別言語の研究は言語類型論の研究にも役立つ。さらに、類型論の研究は他の研究分野(言語理論・対照言語学・歴史言語学)にも役立つ。幅広く諸言語に関心をもつことが重要である。
1 Comments:
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